和の精神性が込められた京の現代住宅
敷地は京都市内の郊外、洛北の閑静な住宅街にある。中心部から地下鉄で10分と便利な場所だが、五山の送り火の北の山の麓であり、敷地から東山の大文字も望まれる。南側6m道路で周辺は家が建ち並んでいるが、いずれも比較的ゆったりとした敷地で東側には球技場のある大きな公園が望まれる。
洛中の京町家は古くから通りに面しては土壁と格子で質素に設え、街路樹のない格子の連続で、それらがまた京情緒を代表する「通り」の姿である。その一方、坪庭を設けた内部空間では自然をふんだんに取り込んで、茶の湯や生花といった豊かな文化が育まれてきた。これらの構成要素が、この洛北の住宅には現代的手法で込められている。 外観は土壁に代わり白の大判タイルと太めの格子で構成し、プライバシーと防犯性を保つ伝統的スタイルを取りながら、大きな樹木を加える事で 「庭」と「通」の一体感を図りながらも通りに潤いを与えている。これらはいずれも日本の生活様式で培われた和の”すまい”に通じる手法で、作法・習慣を保ちながら、現代の住まいにスムーズに置き換えていけた例だと考えている。
敷地の周辺状況から、2階に主体生活部(LDK・和室)を配し、1階に水廻り及びプライベートルーム(主寝室・子供室)を配している。東側、西側共に郊外住宅地に典型的な北寄せ南庭の住宅が連続している。そこで家族室を南へ突き出し、南面採光を充分に受けるリビングルーム(2階)子供室(1階)をL型に配している。通りに接して、駒止めや犬矢来に取って代わって現代では駐輪、車寄せとなり、玄関に入ると開かれた芝庭の上に張り出した階段から「通り庭」の如く2階へ導かれ、「おくどさん」になり代わってセンターキッチンが家族の中心となって現れる。それらが大きな透明ガラス面で、通りからは格子で視線を遮ぎりながらも、常にお互いの気配が感じられる空間構成としている。